興味を持ったことが、
今の暮らしにつながる
雄一郎さんと麻子さんの2人が出会ったのは大学時代。お互いをパートナーとして認め、一緒に暮らし始めたのは23歳の時だったそうです。当初、2人とも環境問題などに全く関心はなく「おいしいものが好きでよく外食する2人だった」そうです。ある時、友人に食べさせてもらった野菜がすごくおいしく、聞けば無農薬野菜を農家から宅配してもらい使っているとの事。また、食材や洗剤は、国産、無添加、減農薬など、こだわりの商品を宅配する「生活クラブ」という生協のものであることを知ります。これをきっかけに、少しずつ環境問題などについて理解し始め、それが今の暮らしにつながってきたそうです。
雄一郎さんが「ゴミ」に携わるようになったのは、以前暮らしていた神奈川県葉山町役場に中途採用され「ゴミ担当」になった時からでした。公務員として町民の方々にゴミの分別について淀みなく答えられるように学び、自ら「コンポスト」を使って生ゴミ処理も始めたそうです。すると、人並みに出ていた「燃えるゴミ」が減ってくることを実感し「特に減らそうと思っていなかったゴミがいつの間にか減った」という現実は雄一郎さんに衝撃を与え、ゴミに興味を持ち始めるきっかけとなったそうです。

「やりたい」という
強い思いが原動力になる
「夫婦の共通認識としてあるのが『なんでもやってみよう』です」と麻子さん。「ゴミに興味を持った夫から『ゴミについてもっと勉強したいから、奨学金を貰ってアメリカに行きたいんだけど』と相談を受けました。そうなったとき『やりたい思い』は最優先事項。思いの強さを大事にして、基本的にやりたいことはやる。家族がついて行けるものだったらついて行きます」と続けると、雄一郎さんも「それは最初からそうかもね。やってみようと思うことをやっている時が一番楽しい。計画や見通しを立てるよりも、やりたいことに一生懸命になり、楽しく暮らせていければ一番いいかなと思っています」と話してくれました。
お子さんも含め服部さんご家族は「ゼロウェイスト(ゴミゼロ活動)」が盛んなカリフォルニア州バークレーに渡ります。雄一郎さんは大学院で経済学や統計学など、環境政策の専門的なスキルを学びました。大学院を修了後は、ゼロウェイストNGOの短期契約スタッフとして、家族全員で南インドのチェンナイで半年間過ごします。契約の終盤、南インドにある世界的なエコビレッジ「オーロヴィル」に小旅行で訪れました。そこでのエコロジカルでユニバーサルな営みに「圧倒的なインスピレーションを得た」と言います。このことが「香美市での山暮らしの実践につながった」と話してくれました。
ワールドワイドに行動するご夫妻の『やりたい思い』を雄一郎さんは「僕たち2人の間では『自由』という言葉が重要です。自分たちには環境問題に対して自由なアクションを起こす自由(権利)があることを知り、実際に行動を始めることが大切なんです」と話してくれました。
麻子さんは「やっぱり『気持ちがいい』ってことが大事。食べるものや目に見えるもの、肌に触るもの、考え方とか言葉とか、そういったものが気持ちがいいと思えることが私の中ですごく優先順位が高いんです」といいます。
社会は変えられないけど、
自分たちは変われる
雄一郎さんは、自分が目指すゼロウェイストやサスティナブルと、かつて学んでいた翻訳が仕事としてつながり、『ゼロ・ウェイスト・ホーム』や『プラスチック・フリー生活』の翻訳を手がけています。また、自らも『ゴミゼロ生活』に取り組み、その様子を『ゼロ・ウェイスト・ホームへの道』としてウェブ上で発信。麻子さんはブログで料理や季節のことなど、ふだんの暮らしを紹介しながら、週に一度開く『水曜カフェ』や天然素材の物品などを通信販売するロータスグラノーラを雄一郎さんと二人で主宰しています。
お2人は、自分たちの取り組みを「他の人に無理強いすることはない」と言い切ります。「それぞれの自由は本当に尊重しなければいけない。どんなにいいことでも『環境問題は大事だからみんなでやりましょう』とプレッシャーをかけるのは小さな暴力だと思っていて、『やりたかったらやりましょう。続けたかったら楽しみましょう』という、風通しの良いストレスフリーの考え方がとても大事だと思います」と麻子さんは微笑みます。雄一郎さんも「僕たちはひとりの力で社会全体を変えることはできませんが、家庭の中のことなら今すぐ変えることができます。基本は幸せになるための環境活動ですから、そこからずれたら何らかの軌道修正が必要でしょうね。幸せってゴールにあるんじゃなくて、そのプロセスが多分幸せということなんだと思います。その過程を皆さんに知っていただきたくてSNS等で発信しています」と笑って締めくくってくれました。
服部雄一郎さんプロフィール
神奈川県生まれ。元・神奈川県葉山町役場ごみ担当職員。アメリカ・カリフォルニア州バークレー、インド・タミルナードゥ州チェンナイ、京都を経て、高知県香美市の山のふもとに移り住む。妻と3人の子どもたちとともに、できるだけ自然に近いたのしい暮らしを志す。『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)や『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)などの翻訳を行う傍ら、自らもゼロウェイスト(ゴミゼロ)やプラスチックフリーなどを実践し、その暮らしをブログ『サステナブルに暮らしたい』やSNSなどで発信している。
服部麻子さんプロフィール
神奈川県生まれ。雄一郎さんとともにバークレー、チェンナイ、京都での生活を経て、2014年に香美市に移住。夫と3人のこどもたち、2匹の猫と一緒に、ちいさな仕事を組み合わせて暮らしている。毎週水曜日には自宅を開放して、かつて住んでいた南インドのカレーとホームメイドデザートを提供したり、地域の素材や天然素材を使った商品を販売するロータスグラノーラを主宰。2020年からブログ「食手帖 高知の山のふもとより」を開始して、香美市での暮らしの楽しみ方、日々の食事などを紹介している。
