日本一の森林県の中で
林業や環境について学ぶ意義とは

 高知県西南部で唯一農業や林業について学ぶことができる高知県立幡多農業高等学校。その中でも、森林率日本一の高知県の林業を支える人材を育てるのがグリーン環境科です。森林学習を通じて環境や地球温暖化について、何を教え、生徒たちは何を学び取っているのかを担当されている矢部裕巳先生に伺いました。※コロナウイルス感染症の影響で、対面による接触に慎重さが求められる中、メールでの取材に応じていただきました。

林業科が前身となり、
森林について3年間で
専門的な知識を学ぶ学科

 「環境」という単語は現代にとって重要なキーワードになっています。私たちは持続可能な社会を実現するために、環境に配慮し地球温暖化対策や生物多様性の実現、リサイクルなどの循環型社会の推進、なにより私たちの周りにある自然や社会の環境をより良くしようと取り組んでいます。

 そんな「環境」を学科名にして、次世代を担う高校生たちを育成する学校が、高知県立幡多農業高等学校(幡多農高)です。幡多農高は今年で創立80周年を迎える歴史ある学校で、設置されている学科は全部で4つ。園芸システム科、アグリサイエンス科、生活コーディネート科、そして今回紹介するグリーン環境科です。この学科は林業科が前身で、平成6年4月に森林科学科、さらに平成15年4月の学科改編でグリーン環境科となりました。

 この学科は1年生で森林科学、森林経営、総合実習など基礎的なことを学び、2年生になると「森林環境コース」という林業関係を学ぶコースと、「森林工学コース」という土木関係を学ぶコースに分かれます。3年生になるとより専門的な知識を学び、林業機械の資格取得も目指します。

 この学科を受け持つ矢部裕巳先生によると「年度によって変動はありますが、どちらかというと進学が多いでしょうか。就職では県内を希望する生徒が多く、森林関係は昨年度、中村市森林組合に1名が就職しました。進学では毎年度、県立林業大学校を希望する生徒が多く、その他林業系は、高知大学、東京農業大学等となっています。林業系以外の大学へ進学する生徒もいます」とのこと。「生徒一人ひとりが目標とした進路先へ就職してくれることが一番ですが、少しでも高校で学んできたことを生かせる仕事に就いてもらえたらうれしいです。他人に優しく、信頼される人になってほしいです」と矢部先生は話してくれました。

高知の森を守り育てるためには、
森を管理する人材が大切

 卒業生の進路はさまざまですが、84%と日本一の森林率を誇る高知県で「林業」について専門的に学ぶことの意義は大きいと考えられます。矢部先生も「森林を放棄すると、当然、森林の持っている公益的機能が発揮されなくなります。最近では、気象も大きく変わり、毎年どこかで大雨の災害が起きるようになりました。森林は水を吸収し、土砂崩れを防ぐ大事な機能があります。森林を放棄することで災害が大きくなる可能性もあるのではないかと考えます。近年問題になっている地球温暖化の防止対策でも、森林の持っている機能が期待されていますし、木質バイオマス発電などエネルギー資源としても利用されています。森林管理を進めるためには林業従事者の確保が大切です。高知県では全国に先駆けて始まった森林環境税の導入や林業に関係するイベントなど、さまざまな取り組みを行っているので、今後もぜひ続けてほしいです」と環境保全の観点から、高知県の森、そして林業は重要な役割を担っていることを教えてくれました。

 グリーン環境科では、森林科学という授業の中で地球温暖化について学ぶ分野があります。生徒たちに地球温暖化の原因について問いを投げかけると、「車からの排気ガス」、「冷房」などの答えが返ってきます。また、近年、異常気象が続いていることから、県内の県立学校では、全校に冷暖房が設置されました。矢部先生は、夏場の気温上昇で冷房なしでは過ごすことが厳しくなってきている現状など、生徒たちも地球温暖化が進んできていることは理解しているように感じるそうです。

環境に興味を持ち、
地球温暖化の解決に
役立ちたい生徒も

 生徒たちがこの学校に入学した動機ですが、林業に興味があってという生徒は正直少ないのが現状です。四万十市近辺の地域は、高校数も少ないため選択する高校が限られており、学力、部活動、家からの距離などで入学を決める生徒が多いようです。矢部先生は「環境に対する意識においては大きく変わっているように感じませんが、今年度は環境についての知識を深めたいと大学へ進学する生徒がいます。少数ですが興味を持っている生徒もいます。環境以外のことでは、実習等を通して作業に取り組む姿勢が変わってきます。1年生の頃は指示をしてもどうしていいのか分からないということもあり、積極的に動くことができませんでしたが、2年、3年と経験することで、指示されたことに対して黙々と作業をこなす生徒が増えてきます。普通高校では学べないことかもしれません」と、自立して物事を考えることができる生徒が育っていることを話してくれました。

生徒たちに、地球温暖化について聞いてみました。「北極などで生息している動物(ホッキョクグマ、ペンギンなど)がかわいそう」「人類滅亡の危機だと思う」「気温の変化が激しいので解消されてほしい」「温度が高くなって氷とかも解けていっているので、このままでは地球が終わってしまうと思います」「温室効果ガスを無くすといっても一人が行っても変わる事ではなく、みんなが行う事に意味があると思う。しかし、実際はそう簡単にはいかず温暖化が進んでいると思う」「人間が解決すべき課題である。世界中が一緒になって考えなければならない。一人ひとりの意識を変え真剣になって考えなければならない」。地球温暖化は他人事ではなく、私たち自身が自らの問題として考え、行動することが必要です。生徒たちのメッセージからは、不安や1人ではどうすることもできない限界感などと共に、自らの事として考え、行動していかなければならないとの強い意志も伝わってきます。1人の生徒が将来の目標について語ってくれました。「環境に関わることに取り組み、地球温暖化の解決の役に立ちたい」私達も、自分に今何が出来るのかを考え、行動に移していかなければなりません。

高知県立幡多農業高等学校 学校概要

1941(昭和16)年2月、高知県立幡多農林学校として創立。1948(昭和23)年3月、新制高等学校高知県立幡多農業高等学校として発足。1963(昭和38)年1月、高知県立幡多農工高等学校と改称。1969(昭和44)年4月、高知県立幡多農業高等学校と改称。1972(昭和47)年3月、古津賀新校舎(現在地)移転。2003(平成15)年4月、学科改変を行い、園芸システム科、アグリサイエンス科、グリーン環境科、生活コーディネート科としてスタート。現在生徒数314名